標準化研究ジャーナル

標準化教育

標準化研究ジャーナル (2013-11)


巻頭言

国際標準の知識が、企業のビジネス戦略をはじめ、通商貿易問題等の分野で不可欠になることや、持続的発展のためには標準に基づく組織の管理が世界的な広がりを見せるということから、多くの場で標準の体系的な知識が重要になり、高等教育の一環として、標準教育を取り上げる試みがこの十年近くなされてきている。この傾向は日本のみでなく、多くの先進国をはじめ幾つかの発展途上国でも同じである。この様な地域的な広がりと、時間的な深さから、多くの標準教育の試みの蓄積がなされてきた。中身を見ると、既存の工学分野の教育の一部分としての教育から、国際標準と企業戦略や知財との関連を一つのコースとするものまで多くの試みがなされている。

2000年頃から、標準の教育を体系的に大学等の高等教育機関で行う動きが、先進国を中心に起こった。ISO/IECITU等のジュネーブに位置する標準機関や米国のASTM等の国際的な標準を作っている機関は、標準教育に取り組む大学等(ISO)の、また規格を授業に生かす教育者(ASTM)や論文(IEC)の表彰制度や、ベストプラクティスを普及するためのワークショップ等の試みを行なうようになった。またアジア太平洋地域の国家が作る組織であるAPECや韓国等では公的な機関自身が教材等を用意する等広がりを見せている。一方ICESにみられる如く大学や標準機関の人々が緩い連携を図り、課題を持ちより標準教育の手法やケースを発表し合い、相互にレベルの向上を図るような試みも顕著な動きとなっている。

日本の大学でも欧米に劣らない試みがなされており、日本工業標準調査会(JISC)では人材育成特別部会を設け、2008年7月に我が国の標準教育の在り方に関する報告書をまとめている。この様な動きを受け日本規格協会(JSA)では、2006年と2009年に標準教育を行っている大学にアンケート調査を行い、標準教育を行う課題や問題点を明らかにした。

一方JISCの事務局である経済産業省では、大学の要望等を踏まえ必要な予算措置を講じ、国際標準化の実例集や、分野や事項ごとの教材の作成を行った。またISOをはじめとする標準機関が中心となり、標準化によるベネフィットの事例研究が行なわれており、多くの書籍や教材が利用できるようになった。

経済産業省と並びJSAやJR東日本では、大学での出前授業や寄付講座を設け、大学での標準教育に貢献してきた。さらに、広がる国際的なコミュニティーとの連携を図るため、幾つかの大学ではMOUを結んだりまた教員自身がICES等の国際ネットワークに入り活動できることとなった。

大学のこの様な活動は単なる教育だけでなく、ビジネスと標準の係り等標準化の社会経済の意義の研究も含み、教育と相まって多面的な広がりを見せている。

標準教育は実践的な意味を持っているため、国際標準作りに携わった人や企業での標準の利用に実務経験を持つ人材の貢献が不可欠で、幾つかの大学では彼らを講師として招聘するようになった。

また研究技術計画学会誌等に標準に係る論文が従来にも増して発表されるとか、日本工学教育協会に標準教育のセッションを設けるなど、数年に渡り学会の場を利用した活動も行われるようになった。

標準教育が浸透するまでには、時間がかかるし、その時その時のトッピクスに影響され、広く定着するためには、現在までの広がりと深さを維持していくことが何よりも肝要である。今回 日本規格協会がお世話をして発刊しようとする標準教育のジャーナルは、以上のような要請に応えようとしたものである。

今回のジャーナルは 8月に新潟で行われた工学教育研究会に発表された方々の講演の要約や国内外の他の幾つかの学会や会合で発表されたものから選んだものである。

特に 日本工学教育協会は工学分野での高等教育の手法やその時々の重要なテーマーを広く取り上げ、過去の蓄積は目を見張るものがあり、我々が関与する標準教育についても多く学ぶべき蓄積と知見ある。

標準教育は教育の観点のみでなく、イノベーションの問題や企業のビジネス戦略 更には公共政策に至るまで広い他の知識の融合が期待されるが、教育という原点は忘れてはならない。

本ジャーナルは電子的ファイルを用い、出来るだけ費用がかからず、自分の行う標準教育を多くの人に知ってもらう一方、多くの他者の経験を費用をかけずに学ぼうとするものである。将来 優れた論文集を集めるのにも役立てることが出来でき、うまく育てれば標準教育の普及浸透に大いに役立つことが期待できる。

2013-11-22
日本規格協会 標準化研究センター長
田中 正躬

1 最近の国際動向

2013年 WSC Meeting及び WSC Roundtaleより抜粋

2 最近の国内動向

  • 田中正躬、池田宏明、岩垂邦秀、國分恵夏: 日本規格協会 標準化研究センター設立の趣旨と活動, 2013年度画像電子学会年次大会企画セション、標準化人材のための環境整備(青森市、2013-06-23)
  • 平成25年度 日本工業教育協会第61回年次大会、工学教育研究講演会、 国際化時代における工学教育-Iより
    • 標準教育の手法の変遷と今後の方向
      【田中正躬、國分恵夏、岩垂邦秀(日本規格協会)】

      高等教育の一環としての標準教育は、既存工学分野の一部分から国際標準と企業戦略や知財をまとめたものまで多くの試みがあるが、今回はこの10 数年間の教育手法や進展をレビュー・分析し将来の方向を示唆した。キー概念はBroadcasting からDialogue である。

    • 大阪大学大学院における国際標準化教育ー複眼的視野を有する国際標準化人材の輩出ー
      【中西 浩(大阪大学学際融合教育研究センター)、金谷 学(大阪大学産学連携推進本部)】

      大阪大学では全大学院生を対象に、複数の科目で構成して専攻プログラム「国際標準化」を開講している。本講演では、教育プログラムの狙いと教育目標および、プログラムを構成する国際標準化に必要な「知の塊」を実現する科目構成設計について述べた。

    • 学生主体の環境マネジメント分野の標準化教育「もし社長だったら」
      【伊藤佳世(中部大学経営情報学部)】

      中部大学では環境マネジメント分野の標準化人材育成(標準を使う⇒標準をつくる⇒標準を教える)に取り組んできた。本講演ではこれまでの教育を活かして学生主体で開発した環境マネジメント分野を中心とした標準化教材「もし社長だったら」の成果を発表した。

    • 企業における標準の普及取り組みと課題-標準が有効に利用されるために-
      【岡本秀樹(アズビル(株)環境・標準化推進部)】

      企業にとり標準が重要であることは疑う余地もないが、標準があっても有効利用されているとは限らない。少なくない労力をかけて作成した標準が使われないのでは、コストを支払っただけになる。標準が有効に利用されるための取り組みと課題について考えた。

    • 早稲田大学、大阪大学における標準化教育連携について
      【佐藤拓朗(早稲田大学大学院国際情報通信研究科)、中西 浩(大阪大学学再融合教育研究センター)】

      早稲田大学の標準化教育内容の実績、国内での連携授業の展開、国際化への取り組みと展開、日英による標準化テキストの作成、今後の授業展開について述べた。

    • 長岡技術科学大学システム安全専攻の教育プログラムにおける安全関連国際規格の利用状況について
      【三上喜貴(長岡技術科学大学専門職大学院技術経営研究科)】

      長岡技術科学大学専門職大学院システム安全専攻の教育プログラムにおける安全関連国際規格の利用状況について紹介する。ISO/IEC Guide 51 を頂点とする規格体系と安全設計、認証、安全マネジメントに関する講義科目の関係について述べた。

    • 国際標準とソーシャルICT
      【岩垂邦秀、田中正躬、池田宏明、吉田 均、國分恵夏(日本規格協会)】

      本年東京大学にて、リーダー育成プログラムの一環の授業として「国際標準とソーシャルICT」を開始。国際標準の重要性だけでなく標準化プロセスにおける、リーダーシップとソーシャルICT の意義と効果的な利用方法を習得するための教育について紹介した。

    • 標準化教育の普及に向けて-工学系教育における標準化教育の必要性-
      【吉田 均(日本規格協会標準化研究センター)】

      国際競争が一層厳しさを増す中、開発技術の国際標準化の重要性が増しており、大学教育においても、その人材育成が始まっている。本発表では一層の標準化教育への関心・理解の高まりの一助として、特に工学系教育の観点から本教育の必要性について整理した。

    • 東京農工大学MOTにおける標準化教育の取組み
      【長田直俊(建材試験センター)】

      東京農工大学MOT においては、基盤科目10 科目の1つとして、「工業技術標準概論」を位置づけている。本講演では、その標準化教育内容の実績、手法、講義の力点等の各種取り組みについて述べた。

  • 日本品質管理学会第 103 回研究発表会(関西支部)(2013-09-13)
    • ビジネススクールにおける「標準化」教育
      【松本 隆(関西学院大学 専門職大学院 経営戦略研究科)】
      「社内標準化」は品質管理の基盤と考えられ、TQMが 企業競争力の源泉となった考え方の一つに「社内標準化」がある。一方、 「国際標準化」は、特 に先端 技術分野では、企業における事業(技術)戦略の有力なツールとなっている。以上の「標準化」の多様な有用性を踏まえ、経営戦略の観点で、 「社内標準化」 及び「国際標準化」についてバランスをとった実践的な教育をビジネススクールで実施している。その取り組みを報告し た。

3.標準化教育協力協議

2013年6月末にワシントンD.C.で開催されたIEC-ISO-ITUのWSC円卓会議のフォローアップとして、日本規格協会 標準化研究センターの主導により、我が国の大学で英語による標準化教育を実施している主要大学の担当者とISO事務総長の戦略担当官との間の協力協議が、2013年11月8日に東京大学ファカルティーハウスのセミナー室で開催された。

これには、大阪大学、東京大学、東京工業大学、早稲田大学及びジュネーブ大学からの参加があり、今後の国際的な広がりを持つ標準化教育協力について一定の合意が得られた。

続いて、ISO中央事務局からジュネーブ大学での標準化教育に派遣されているDr. Daniele Gerundinoによる標準化特別講義が行われ、受講生から好評を得た。

標準化教育協力協議
前列左から:國吉研究科長(東京大学)、Gerundino博士(ジュネーブ大学)、中西教授(大阪大学)
後列左から:池田名誉教授(千葉大学)、古博士(佐藤研究科長代理、早稲田大学)、
田中教授(日本規格協会、東京大学)、渡邉特任教授(東京工業大学)


発 行: 一般財団法人日本規格協会
Journal of Standardization Research