標準化研究ジャーナル (2014-10)

標準化教育

標準化研究ジャーナル (2014-10)


巻頭言

日本は、1970年代から1990年代にかけて、ものづくりにおいて世界を市場に大きな存在を示した。

しかしながら、グローバルな市場競争状態の進展に伴い、半導体やPC、TVやDVDなどの大量流通・大量消費物において、シェア獲得率が低下してきている。また、情報通信の分野においても、スマートフォン等のハードウェアも、外国製品が圧倒している。

その原因としては、グローバル市場に対する事業戦略の不明確さの問題などとともに、国際標準化に関する取組みパワー不足や戦略の欠如が指摘されている。

国際標準化は、製品やシステム、物やサービスが、ある一定の品質を保って安定に動作する為の条件を、仕様や動作条件等の規格として定めるものである。ユーザーにとっては、世界中の誰もが安心して使用できるようにするための規格を定めるものである。製品やシステムなどの物やサービスを提供するベンダーにとっても、大きな市場シェアの獲得など、自社のビジネスに有利な案とすべく、国際標準の策定に向け、多くの労力をかける必要がある。

日本の国際標準化活動について、標準化活動への投入人数の不足および投入人材の継続取組期間の不足や、規格案作成過程でのネゴシエーションへの対応力不足が、指摘されている。

自らの先行する研究成果をもとに、競争有利な世界標準を作る人材を輩出する教育が必要である。

国際標準化に関わる体系的な知識の涵養を目的として、高等教育機関で標準化教育を取り上げる試みがこの十年近くなされてきている。この傾向は日本のみでなく、多くの先進国をはじめ幾つかの発展途上国でも同じである。教育方法としては、工学分野の教育科目による教育やプログラムによる国際標準化に関わる体系的な教育まで多くの試みがなされている。

2000年頃から、先進国を中心に標準化に関わる教育を体系的に大学等の高等教育機関で行う動きが始まった。ISO/ITU/IEC等のジュネーブに位置する国際標準化機関や米国のASTM等の国際的な標準を作っている機関は、標準教育に取り組む大学等(ISO)の、また規格を授業に生かす教育者(ASTM)や論文(IEC)の表彰制度や、ベストプラクティスを普及するためのワークショップ等の試みを行なうようになった。ITUでは、国際標準化に取り組む機関と学術機関を結びつける目的で、2008から、Kaleodoscopeと名付けた国際会議を開催し、ICTに関わる新技術とその標準化構想や標準化教育に関わる論文の発表と優秀論文の表彰を行うとともに、国際標準化教育に関わるワークショップpを開催し、世界の大学等における標準化教育への取組状況の発表と議論、また、教育情報の収集を行っている。

アジア太平洋地域の国家が作る組織であるAPECや韓国等では公的な機関自身が教材等を用意する等広がりを見せている。一方ICES(International Committee on Education about Standardization)にみられる如く大学や標準機関の人々が緩い連携を図り、課題を持ちより標準教育の手法やケースを発表し合い、相互にレベルの向上を図るような試みも顕著な動きとなっている。

日本では、24大学で45の国際標準化科目が開講され、うち大阪大学と金沢工業大学では、複数の科目で構成した国際標準化教育プログラムを開講し、所定の単位を修得した学生に対してプログラム修了証を授与している。日本工業標準調査会(JISC)では人材育成特別部会を設け、2008年7月に我が国の標準教育の在り方に関する報告書をまとめている。この様な動きを受け日本規格協会(JSA)では、2006年と2009年に標準教育を行っている大学にアンケート調査を行い、標準教育を行う課題や問題点を明らかにしている。

一方JISCの事務局である経済産業省では、大学の要望等を踏まえ必要な予算措置を講じ、国際標準化の実例集や、分野や事項ごとの教材の作成を行った。またISOをはじめとする標準機関が中心となり、標準化によるベネフィットの事例研究が行なわれており、多くの書籍や教材が利用できるようになっている。JSAやJR東日本では、大学での出前授業や寄付講座を設け、大学での標準教育に貢献している。

学会においても、研究会や学会大会において、学術発表や学術論文の投稿が行われ、画像電子学会、電子情報通信学会や日本工学教育協会大会において標準教育のセッションを設けるなど、学会の場を利用した活動も行われるようになった。

今回のジャーナルは、8月に広島大学工学部で行われた工学教育研究講演会に発表された方々の講演の要約や国内外の他の幾つかの学会や会合で発表されたものから選んだものである。

日本工学教育協会は工学分野での高等教育の手法やその時々の重要なテーマを広く取り上げ、過去の蓄積は目を見張るものがあり、標準および標準化教育についても、学ぶべき知見を多く蓄積している。

本ジャーナルは、2013年に続いての発刊であり、電子的ファイルを用い、出来るだけ費用をかけずに、多くの人に大学および企業等における標準化教育への取組を知ってもらうようにするとともに、多くの人の様々な取組を学ぶことができ、更に、国際標準化教育に関する論文を集めるのにも役立つなど、標準教育の普及浸透に大いに役立つことが期待できる。

2014-10-5
大阪大学
中西 浩

1 最近の国際動向

  • 岩垂邦秀:国際的な集まりによる標準化教育の動向
    標準は、効率的で品質の高い製品の製造への利用、互換性の確保による利便性の向上など従来の使い方を始め、企業のビジネス戦略に関係することや、貿易の問題への発展、国内外で規制に用いられ、さらに、安全確保、持続的発展に寄与するための組織管理への利用など、その役割の多様化と広がりが、近年ますます顕著になり、複雑性を増している。さらに、これらの標準の開発を支える人材の不足も課題となっている。こうした背景から、標準化教育の開発が進んでおり、本稿では、国際的な取り組みと、そこで得られた海外での状況を報告した。

2 最近の国内動向

  • 第62 回年次大会(平成 26年度)工学教育研究講演会 口頭発表、 国際化時代における工学教育 より
  • 遠隔教育(e-learning)を用いた工学教育分野における標準教育の可能性
    【田中 正躬、岩垂 邦秀、國分 恵夏((一財)日本規格協会)】
  • この十年、日本及び世界の高等教育の場で標準教育を取り上げる試みがなされ、多くの事例の蓄積がなされてきた。本稿では多様化する標準教育を近年進歩の著しい遠隔教育(e-learning)を用いて行う効用と実施に向けての課題の検討を行った。
  • 国際化時代における工学基盤教育の一側面-グローバル共通基盤の素養の育成-
    【池田 宏明、田中 正躬((一財)日本規格協会標準化研究センター)】
  • 本稿では、工学教育の目標として最近の社会ニーズに対応して、サイバー社会の基盤を支える活動の重要性を正しく理解し、実践能力を備えたグローバル人材が不足していること、その育成が必要なことを最近の実例を用いて述べた。
  • 早稲田大学標準化教育の学部展開について
    【佐藤 拓朗(早稲田大学基幹理工学部)】
  • 早稲田大学では、2008 年より大学院で開講してきた「情報通信と国際標準化」と「企業ビジネスと国際標準」を2014 年度より学部教育として開講。本稿では、学部教育を実施する上での課題に及び具体的なカリキュラムの構成について明らかにした。
  • ICT分野における標準化教育の一手法-標準化活動情報分析の提案-
    【平松 幸男(大阪工業大学大学院知的財産研究科)】
  • ICT 分野における標準化教育に焦点を当て、この一手法として標準化組織が公開している標準化活動情報の分析を活用することを提案する。まず、ICT 分野の代表的な標準化組織における入手可能な情報を述べ、次にそれらの標準化教育への活用方法を考えた。
  • 超高速衝突実験手順の国際標準化-ISO 11227の制定過程と標準化教育-
    【赤星 保浩(九州工業大学産学連携推進センター)】
  • ISO 11227 が2012 年9月15日に発行された。この国際標準の制定過程で深く九州工業大学も関わっており、標準化活動を通じて学生の標準化教育を日本規格協会の協力を仰ぎながら実施した。これまでの本学での取組をISO 11227 を例に紹介した。
  • 大学における国際標準化教育の分析-開講形態と教育の位置づけ-
    【中西 浩、松行 輝昌(大阪大学)】
  • 国際標準は、製品やサービスの性能や互換性、信頼性を保証する役割に留まらず、ビジネスサイズを大きくする役割など、極めて重要な役割を果たしている。本論文では、国内外の大学における国際標準化教育の内容と、その意義についての分析結果について述べた。
  • グローバル知的財産戦略における国際標準化人材育成-九州大学における国際標準化教育の取り組み-
    【堀尾 容康(九州大学炭素資源国際教育研究センター)】
  • グローバル化時代を迎え、大学における工学教育においても知的財産戦略と国際標準化の重要性が高まっている。本講演では、国内の大学及び国際機関への実態調査を基に九州大学における試験的教育カリキュラムを企画実施し、その結果について考察した。
  • 知的財産専門職大学院における標準化教育-標準化と知財権のビジネス戦略を考える-
    【藤野 仁三(東京理科大学イノベーション研究科)】
  • 筆者が担当する「標準化と知財戦略」科目において、標準化に強い企業や事例を取り上げ、標準化とビジネスの関係を検討している。また、グループワークの課題として標準化提案を課している。科目の狙い、教材、効果等について紹介した。
  • 工学研究科電気電子工学専攻における標準化教育の試み
    【渡邉 朝紀(東京工業大学大学院工学系研究科)】
  • 東京工業大学理工学研究科電気工学専攻に2011 年から設置されている「鉄道における技術イノベーションと標準化」JR 東日本寄附講座で実施している「技術イノベーションと標準化」の授業について、授業の背景にあるモチベーションと授業の内容を紹介した。

発 行: 一般財団法人日本規格協会
Journal of Standardization Research