松下電器産業(株) 松岡 政治
−松下電器における高齢者のバリアフリーに関する取り組み−
松下電器では,事業活動の基本として,"人にやさしく使いやすい商品づくり"を標榜しております。この考えは,昨今の"ユニバーサルデザイン"の考え方と相通じるものがあります。
松下電器には"松下のユニバーサルデザイン方針"というものがあり,ここでは,"松下のユニバーサルデザインは,あらゆる人々への心くばりを美しく形象化することによって,共に生き生きと快適にくらせる生活の実現をめざす
"と表現しております。
障害者とは,一般的に視覚障害者,聴覚障害者,肢体不自由者及び知的障害者を対象にしていると言われます。しかし,情報・通信機器及びそのサービスが社会基盤としての役割を着実に増している現況を考えますと,これら障害者ばかりでなく,加齢に伴い身体機能の低下が現れた高齢者,妊産婦,ひいては,負傷(けが)等のために機器の操作に困難さを感じる人たちに対しても,障害者に対すると同様に十分な配慮と取り組みを行うことが必要であると考えます。
本報告書では,高齢者社会の到来という背景や誰もが避けて通れないことから,特に"高齢者"に焦点を当てて,高齢者の機器使用時に感じる不満や要望と設計上配慮すべき点を紹介します。
また,高齢者の身体的機能の衰えとして代表的に挙げられる視覚障害(白内障)及び聴覚障害(事例として"報知音")につきましては,節を改めてやや詳しく紹介します。
松下電器にとりまして,高齢者をはじめとして誰もが遭遇し得る心身的な機能低下を想定した商品検討は未だその緒についたばかりです。そのために,商品検討時はもとより本報告書作成におきましても,本文末尾に紹介する多くの文献や資料を参考にさせて頂きました。より詳しい情報を探求の読者には本文と合わせて参考にされることを期待します。
我が国は,世界に類を見ない急速な人口構造の高齢化により,2000年には,高齢化率(65歳以上の人口比率)が17.2%,2020年には,国民の4人に1人が65歳以上の高齢者という超高齢社会の到来が予想されており,国・業界レベルにおいて,高齢者・障害者に配慮する調査・研究等の取り組みが積極的に行われるようになってきている。
ここでは,高齢者が家庭電器製品を使う色々なシーンを取り上げ,そのときに関係の深い身体(心体)機能の低下が影響する様子と高齢者の声・要望及び設計上配慮すべき点を紹介する。
本来家庭電器製品を前提とした調査・研究であるが,情報・通信機器のバリアフリーを検討する上でも参考になると思われるものを抽出した。
a) 操作に伴う動作のしやすさ
1) 加齢に伴って進行する主要な身体動作面の変化
・身長,体重共に緩やかではあるが,徐々に低下に向かう。
・姿勢面では,円背,股関節や膝関節の屈曲,腰椎の後弯などの傾向が生じる。
・骨の変化では,骨の張力,弾性率,表層の硬度などの低下が起きる。
・関節可動域の低下によって,体幹の屈曲・回旋運動などの能力が衰える。
・平衡性の低下は著しく,立位での重心動揺距離が大きくなる。
・柔軟性,敏捷性,瞬発性,筋力の低下により,全ての運動速度が遅くなる。
2) 操作上の身体動作面に関する高齢者の声
・高い所にあるものの操作がしにくいし,踏み台の使用も危険だ。
・極端に低い位置での操作は足腰に負担が大きい。
・腰を屈めた状態での長時間操作や,座る立つの繰り返し動作も辛い。
・段差のある所で足を踏み外したり,突出物につまずきやすい。
・コードに足をひっかけてよろめいたり,機器を転倒させそうになる。
3) 設計上配慮すべき点
加齢による身体動作面の衰えは,生活の基本面に関わるところが多く,その影響は大きい。特に,この面での不適切な設計によってもたらされる結果は,傷害や災害につながるものが多いだけに,高齢者への十分な配慮が要求される。
但し,動作姿勢に関わる要素など,高齢者に対する一方的な配慮が,若年者にかなりの負担を生じる場合もあるので,設計部分に応じて対応方法をよく検討する必要がある。
b) 取り扱いのしやすさ(機械的操作部分を含む)
1) 加齢に伴って進行する主要な運動機能の変化
運動機能の要素としては,筋力,柔軟性,敏捷性,平衡性,瞬発力,持久力などがあるが,若年者と比較して,ほとんどの機能が低下する。ただ,性別,上下肢,日常活動度の程度などにより,個人差が大きい。
2) 機器の取り扱いに関する高齢者の声
・部屋間の移動の必要性を考えれば,重量の軽い製品がよい。
・フタなどの開閉,ノブなどの操作に困る。
・包装物を開けるのが固くて大変。
3) 設計上配慮すべき点
筋力・柔軟性など,運動機能の低下は,高齢者にとって,製品の持ち上げ,携帯移動,開閉・着脱などの行動を次第に困難なものとしていく。これらは身体機能として最も基本的なものであるだけに,高齢者,身障者の自立を妨げる大きな要因となるものであるが,多機能・パワーアップ競争,造形性追及偏重の中でおろそかにされやすい配慮項目であることを認識する必要がある。
c) 表示類の見やすさ −操作表示の視覚認知−
1) 加齢に伴って進行する主要な視覚変化
・視力は55歳で0.5程度に,70歳代で20歳代の1/2に低下する。
・視対象が鮮明に見える最小限度の距離(近点)が遠くなる。
・焦点調整力は,60〜70歳になると若年者の1/10程度になる。
・暗順応時の瞳孔径が小さくなり,水晶体も白濁してくるため,暗い所でものが見にくくなる(60歳代の視作業には20歳代の数倍の照度が必要)。
・色覚では,色差を識別する能力が低下する。
・有効視野,特に上方視野が狭くなる。
2) 表示・印刷文字に対する高齢者・弱視者の声
・大きな表示で,適度な太さの文字にしてほしい。
・文字と地色とのコントラストを明瞭にしてほしい。
・見やすい色使い,目に優しい色使いにしてほしい。
・樹脂成型の文字表示はやめてほしい。
・液晶表示は,地色と文字色のコントラストをつけてほしい。
3) 設計上配慮すべき点
視認性配慮の対象として想定されるユーザは,高齢者を含む軽度の視覚障害者(35cm矯正視力が0.5前後)であるが,特に加齢に伴う視覚の衰えへの対応は,高齢者比率の増大が急速に進行するだけに,社会問題として取り組むべき重要な課題である。これら高齢者・視覚障害者のユーザビリティ調査において,困っている事として常に上位にあげられるのが,表示文字が読みにくいという問題である。
d) 触覚によるわかりやすさ −凸表示の触覚認知−
1) 加齢に伴って進行する主要な触覚の変化
触覚は,老化に従って,感覚受容器の数の減少と機能低下,神経伝導障害,中枢での感覚機能低下などの原因により,若中年層に比べてかなりの衰えを示すようになる。
2) 操作部の触覚的認知に関する高齢者・視覚障害者の声(*印は視覚障害者に多い声)
・ボタンの形状や質感を変えて区別しやすくしてほしい。
・ボタンは出っ張りがあって,押した感覚が分かりやすくしてほしい。
・基準となるボタンには目印(凸状)を付けてほしい。*
・主要なボタンの側に点字表示をつけてほしい。*
・回転式ボタン(ダイヤル)にはクリック感を設けてほしい。*
3) 設計上配慮すべき点
視覚障害者にとって,機器操作上大きな頼りとなる認知手段は触覚と聴覚である。特に触覚認知の方法は点字を始めとして古くから用いられてきた。ただ点字は,後天的な障害者を中心として判読可能者が少なく,一説では障害者全体の20%程度と言われている。従ってより普遍的な認知手段を求める場合は感覚的に認知できる凸点,凸バーなどの凸記号や,ボタン等操作部の形状識別の手法を導入していくことが必要である。
e) 報知音のわかりやすさ −報知音の聴覚認知−
1) 加齢に伴って進行する主要な聴覚の変化
・高齢者難聴は45歳位から始まるが,ゆっくりと症状が進行する。
・聴覚は全体に衰えるが,特に4.0kHzあたりから高周波域へ行くに従って急激に,この傾向は強くなる(若者は逆に4kHz近辺の認識率が高い)。
・カ行,サ行,タ行などの子音が聴き取りにくくなる。
2) 報知音に関する,高齢者・聴覚障害者の声(*印は視覚障害者に多い声)
・ボタンを押した時に音が出るようにしてほしい。
・電源はONとOFFの区別が明確に分かるようにしてほしい*。
・タイマーの設定は音声表示で分かると楽になる*。
・押す毎に設定状況が変わるボタンは,基準の位置で明確に分かる音が出るようにしてほしい*。
3) 設計上配慮すべき点
視覚障害者にとって,触覚と共に機器操作上大きな頼りとなる認知手段は聴覚情報であるが,報知音自体が聞き取れるかどうか,何を報知しているのかを区別し理解できるかどうか,また同居する若年者の受容性とどう兼ね合いをつけるのか,などが解決すべき課題となっている。
f) 簡単で理解しやすい使用方法(主に認知特性)1) 加齢に伴って進行する精神機能の変化g) 誤操作への対処・防止
・単語の理解能力と計算能力は,50歳以降低下を示すが,空間認知と問題解決の能力は,20歳以降徐々に低下を示す。
・60歳代で,記憶力や学習力は,若年層に比べて50%台に低下する。
2) 操作のわかりやすさに関する高齢者や障害者の声
・とにかく面倒なことは嫌だ(操作方法を理解し,憶えることなど)。
・使いやすければ多機能のほうがよい。
・一つのボタンは一つの機能に対応するようにしてほしい。
・わかりやすい表現や用語を用いてほしい。
・操作の手順がわからない。
3) 設計上配慮すべき点
近年コンピュータの家電製品への導入が急速に進展している。その結果,高機能化の傾向は年々著しくなり,技術要素を充分に消化しきれていない,使いにくい製品が大量に出現した。特に新しいものへの適応が困難な高齢者からは,使い方がわからないという不便さを訴える声は強く,操作のわかりやすい製品作りは,今後最も注力すべき課題の一つとなっている。
1) 加齢に伴って進行する主要な人間機能の変化
・指先の,特に微細な運動制御能力が大きく低下する。
・触覚や振動覚など,体性感覚が急速に衰えを示すようになる。
・空間認知と問題解決の能力は,20歳以降徐々に低下を示す。
・60歳代で,記憶力や学習力は,若年層に比べて50%台に低下する。
2) 誤操作に関する高齢者や障害者の声
・うっかりとボタンを押して,設定が変わってしまうことがよくある。
・誤った設定をした時,すぐに取り消せるリセットボタンがほしい。
・操作ボタンを押しても,確実に押せたかどうか心配だ。
・機器によっては,エラー音が聞こえない場合がある。
・メニューやタイマーの設定ミスを後で知ることが多い。
・タイマー設定では,12時間制の場合,午前と午後をよく間違える。
3) 設計上配慮すべき点
誤操作は,人間機能全般の衰え,障害程度に沿って発生の機会が増大すると見てよいが,特に最近の傾向としては,感覚的反応の弱い操作部分,複雑な操作手順が原因となって発生する事例が多いようである。
h) 安全・安心への配慮
1) 加齢に伴って進行する主要な身体機能の変化
・関節可動域の低下によって,体幹の屈曲・回旋運動などの能力が衰える。
・平衡性の低下は著しく,立位での重心動揺が大きくなる。
・柔軟性,敏捷性,瞬発性,筋力の低下により,全ての運動速度が遅くなる。
・単語の理解能力は,50歳以降低下を示し,記憶力は60歳代で,若年層に比べて50%台に低下する。
2) 安全・安心についての高齢者や身障者の声
・突起物にけつまずいたり,段差を踏み外して転倒しそうになった。
・コードを足で引っ掛けて,機器を転倒させ,けがや火傷をした。
・コンセント・コードの不備で,発熱,発煙を経験した。
・濡れた手で電気機器を触って,ビリッときた。
・踏み台が必要な操作は,転倒しそうで恐い。
・警告報知の方法が片手落ちのため,障害者に伝わらない場合がある。
3) 設計上配慮すべき点
ある調査データによると,一年間に家庭内で事故を起した高齢者は70歳代で約13%,80歳代で約22%に及ぶ。内容としては転倒事故が約44%,次いで転落,衝突(16%前後),挟まれ(10%弱),火傷(5〜6%)鋭利物によるケガ(3%台)と続く。家電製品に絞ると,危険な経験をした内容としては,高齢者では,火傷(3.3%),発煙・発火(1.8%),感電等(2.5%),ケガ(0.5%)などとなっているが・視覚障害者になるとこれらの経験は4倍前後に増大する。とかく健常者には気付きにくい,心身機能の障害・衰えが様々な事故につながっていることを設計者はよく認識する必要がある。
i) 身体的機能の低下の状態にある高齢者の生活上の不便さ実態
身体的機能の低下の状態にある人達が生活する上で感じている不便な点を知ることによって,デザイン開発を行う時に配慮しなければならないことが類推できるとともに,まったく新しいユニバーサルデザイン製品を開発するためのヒントにすることができる。以下,"高齢者"についてのデータを抽出して生活上の不便な点について主なものを紹介する。
【出典】〈財)家電製品協会の「高齢者・視覚障害対象家電製品使用実態基礎調査」,
大阪府立産業デザイン研究センターの「商品開発の現状とエイジレス商品開発に関する考察」,E&Cプロジェクトの「高齢者の交通機関とその周辺での不便さ調査」1) ボタンは…
・小さくてよく見えず,操作がうまくできない。
・ボタンの数が多すぎてわかりにくい。
・配列がわかりにくい。ボタンの形が似ていて区別がつきにくい。
・基本的なボタンに目印がほしい。
2) 使いたい機能の選択がむずかしい。
3) 表示文字は…
・小さすぎて見えにくい。
・表示用語の意味がわかりにくい。
・表示用語が外国語なのでわからない。(外来語のカタカナも)
・色の差がわかりにくい時がある。(白内障の人)
・液晶表示の文字や表示が見えにくい。案内の意味がわかりにくい。
4) 時刻や機器の設定などがむずかしい。
5) 目盛りがわかりにくい。
6) 音声でもわかるようにしてほしい。
a) 視覚(白内障研究)
1) 白内障擬似体験ゴーグル誕生ものがたり
1.1) 高齢者の増加に伴う商品への使い方研究 1989年〜
・高齢者生活研究,使いやすさ研究
・フレンドリー推進プロジェクトの全社展開
1.2) バリアフリー重点推進による"白内障"の取り上げ 1994年〜
・"老人性白内障"は誰にでも生じる老化現象と言われる。
・「薄暗い所で見えにくい」,「物がぼやけたり,かすんで見える」,「戸外や逆光ではまぶしい」,「矯正しても視力が出ない」。
・調べると何となく分かるがもう一つピンと来ない。
・頭で分かっただけでは"白内障"に応えられる商品はつくれない。
1.3) 製品開発部署からの白内障擬似ツールの開発要望 1996年
・高齢者の眼になって使いやすい商品作りをしたい。
・若い技術者やデザイナが"白内障"を体験できるツールが欲しい。
・高齢者の生活研究や検証に裏付けられたツールが欲しい。
1.4) 白内障専門病院との共同研究(白内障患者の協力)1996年〜1997年
・白内障手術患者48名
・手術後の患者に手術前の見え方に近いフィルタを選択してもらう。
1.5) 白内障擬似ゴーグル開発,試作品完成 1997年8月
・"生活に不便を感じ始める程度の白内障の見え方"を疑似体験できるゴーグル完成。
1.6) 擬似ゴーグルの活用 1997年10月〜
・対外発表(特許申請,学会発表)
・社内活用(操作パネル設計・デザインへの活用推進)
・宣伝活動(展示会発表,マスコミ取材対応)
1.7) 擬似ゴーグル改良要望
・"どの程度の見え方なのか知りたい"との要望が新たに登場。
1.8) 改良ゴーグル検討 −定量的見え方検証−
・ゴーグルの見え方の定量的検証開始。
・全80眼(白内障患者,高齢者(矯正視力1.0),40歳代前半,20歳代前後)及び
4水平照度(80lx,300lx,500lx,700lx)での見え方データ収集。
1.9) 改良ゴーグル完成 2000年
・80から700lxの室内で45歳までの人が,"生活に不便を感じ始める程度の白内障の見え方"を擬似体験できる改良型ゴーグル完成。
2) 活用事例等
2.1) 社内で:商品開発,デザイン検討,商品本体や取扱説明書の見やすさ検討時に活用。
2.2) 社外で:店頭や展示場での商品やパッケージの見やすさ,照度による見やすさ検討時に活用。
2.3) その他:住宅や設備の設計や表示,医療・介護・福祉従業者教育などの現場で活用。
b) 聴覚(報知音研究)
1) 研究の経緯
1.1) 1993年から報知音に関するユーザの評価・調査データ収集。
1.2) 1995年度金沢工業大学と"報知音の吹鳴パターンが与える心理的聴取印象"について共同研究実施。
本来,"せき立てる必要のある"のに"ゆったりとした感じ"に聞こえる報知音やその逆があるとの経験的実感を定量的に把握し,製品設計に反映するために行った。
1.3) 1996年9月上記心理的聴取印象についてのデータを"家電製品の使いやすさマニュアル(報知音データ集)"として発行。
1.4) 上記マニュアルの課題
・周波数の違いよりも吹鳴パターンの方が心理的聴取印象に与える影響が大きいことは明らかにしているが,報知音の周波数として現行の報知音に多く見られる2kHzと4kHzに限られている。
・加齢とともに現れる聴力の高周波特性劣化に配慮するあまり,比較的低周波数の音を報知音として採用した場合,家庭内生活音(背景音)に埋もれる懸念がある。その結果,家庭内生活音の分布のピーク周波数と報知音周波数とが同帯域ならば,報知音を高めなくてはならず,一般の人々には"やかましい報知音"ということになる。
・結論として"家庭内生活音についての定量的調査"が欠落していることが課題として挙った。
1.5) 課題克服への取り組み −家庭内生活音(背景音)の測定−
1.5.1) 測定の手順
・実測調査対象候補を対象とした事前アンケートの実施(住宅周辺の音環境,音に影響する内部構造,報知音に関する障害事例)
・実測調査対象の選定
・各家庭内の室内の聴取位置による音圧レベルのばらつき把握(室内5箇所の音圧レベル分布の測定)
・家庭内生活音の測定(基準化した生活場面の音の周波数分析)
・報知音の単独の測定(使用場所における家電製品の報知音の周波数分析)
1.5.2) 報知音に関する障害事例アンケート項目
・報知音が聞こえなくて困った経験の有無,内容(コメント)
・報知音が耳障りだった経験の有無,内容(コメント)
1.5.3) 測定対象の選定
・アンケート対象:163家庭
・実測調査対象:16家庭(住宅の構造・間取りが異なるように配慮)
1.5.4) 聴取位置による音圧レベルのばらつき
・音源用スピーカの設置
・測定ポイントの設定設置
1.5.5) 家庭内生活音(背景音)源
・特定した家事作業発生音:調理,食器洗い,換気,掃除,洗濯,テレビ聴取等
・車の通行や近隣などからの周辺背景音
1.6) 1997年8月上記課題に対する調査を加えて"家電製品の使いやすさマニュアル(家庭内生活音データ集)を発行"
2) 成果等
従来,加齢に伴う高齢者の聴力周波数特性の変化から,高周波の使用を控えることと音圧への配慮だけであった設計指針から,家庭内の生活音(背景音)の中で,通常人はもとより高齢者にとっても,聞き取りやすくかつ目的(緊急対応を促す・促さない)に応じた"報知音"の設計基準の目安を提示することができた。
松下電器では高齢者(概ね65歳以上75歳未満の"前期高齢者"を指す)の自立生活を支援する家電製品の開発にあたって最低限配慮すべき基本的な考え方を"加齢配慮設計基準"として持っており,それを以下に紹介する。
1) 身体の衰えを配慮し,具備すべき機能に過不足のないこと。
2) 身体の衰えを配慮し,基本的な操作は,取扱説明書を見なくても操作できるようになっていること。
3) 身体の衰えを配慮し,持ち運びや操作のしやすい形状・寸法・重さになっていること。
4) 表示は,視力の衰えや生活経験などを配慮し,見やすく理解しやすい表示になっていること。
5) 報知音は,聴力の衰えや生活経験などを配慮し,聞こえやすくわかりやすい音になっていること。
6) 操作部分(ボタン・つまみ)は,手指の衰えを配慮し,操作・調整・確認がしやすい形状・寸法・構造になっていること。
7) 身体の衰えを配慮し,操作を誤った場合,容易に元に戻れるなど,安心して操作できるようになっていること。
8) 身体の衰えを配慮し,火災・けが・やけどの恐れがなく,安全に操作できるようになっていること。
9) 身体の衰えを配慮し,手入れ・交換が行いやすいようになっていること。
10) 身体の衰えや生活経験を配慮し,シンプルで直感的に何を行うかが理解しやすいデザインになっていること。
以上,高齢者の身体機能の衰えとそれに対する配慮を通じた商品づくりの一端を紹介してきた。
ところで,私たちが日常使っている家庭電器製品や情報・通信機器は,果たしてどうだろうか。便利な機能・華やかな機能に力点を置くあまり,その使い勝手がどこか犠牲になっていないだろうか。新しい情報・通信機器は,必ずしも高齢者ばかりでなく,多くの健常者にとっても使い易くないことは否定できないと思う。
まとめに当たって,これまで,"人にやさしく使いやすい商品づくり(フレンドリー推進)"の一端を設計の立場から担ってきたものとして,自らの反省を込めて,再度,高齢者・障害者の立場に視点を置き直す中から,誰からも,"使いやすい"といわれる商品づくりを目指していきたい。
この紙面を借りて,未熟な私どもを支えていただいた参考文献に挙げる諸兄,諸団体をはじめ多くの協力者に感謝の意を捧げます。
【参考文献】
1) 「日本人の人体計測データ」:(社)人間生活工学研究センター,1997
2) 「高齢者居住環境の評価と計画」:児玉桂子,1998,中央法規出版
3) 「福祉機器と適性環境」:徳田哲男,児玉桂子,1998,中央法規出版
4) 「高齢者・視覚障害者対象家電製品使用実態基礎調査報告書」:(財)家電製品協会,1997
5) 「高齢者・視覚障害者対象家電製品使用実態基礎調査報告書(PART-2)」:1998
6) 「図説エルゴノミクス」:野呂影勇・他,1990,(財)日本規格協会
7) 「高齢者の身体的機能の変化に対応する商品の調査研究」:商品科学研究所,1990
8) 「家電製品操作性向上のガイドライン」:(財)家電製品協会,1994
9) 「人間工学基準数値数式便覧」:佐藤方彦・他,1992,技報堂出版
10) 「人体を測る/計測値のデザイン資料」:小原二郎・他,1986,日本出版サービス
11) 「人間工学ハンドブック」:日本人間工学会,1966,金原出版
12) 「朝起きてから夜寝るまでの不便さ調査/視覚障害者編」:(福)日本点字図書館,1993
13) 「朝起きてから夜寝るまでの不便さ調査/聴覚障害者編」:(福)聴力障害者情報文化センター,1995
14) 「商品開発の現状とエイジレス商品開発に関する考察」:大阪府立産業デザイン研究センター,1992
15) 「高齢者の交通機関とその周辺での不便さ調査報告書」:E&Cプロジェクト,1996
16) 「妊産婦の日常生活・職場における不便さに関する調査研究」:E&Cプロジェクト,1995
17) 「高齢化社会の概要」:松下電器・システムプランニングセンター,1995
18) 「電気製品の使いやすさに関する研究」:松下電器・ヒューマンエレクトロニクス研究所
19) 「触覚表示の認知特性に関する研究」:松下電器・総合デザインセンター,1996
20) 「持ちやすいハンドルの断面形状に関する研究」:松下電器・総合デザインセンター,1998
21) 「バリアフリーの商品開発」:E&Cプロジェクト,1994,日本経済新聞社
22) 「バリアフリーの商品開発−2」:E&Cプロジェクト,1996,日本経済新聞社
23) 「バリアフリー」:野村みどり,1995,慶応通信
24) 「バリアフリーをつくる」:光野有次,1998,岩波新書
25) 「福祉用具の流通ビジネス」:後藤芳一,1998,同友館
26) 「朝子さんの一日」:永原達也,1993,小学館
27) 「朝子さんの点字ノート」:河辺豊子,1995,小学館
28) 「バリアフリーの生活カタログ」:E&Cプロジェクト,1997,小学館
29) 「家電製品の操作性に関する設計指針JIS C 9102」日本工業標準調査会,1996
30) 「高齢者の聴力レベルとテレビの聴取音量:家電製品の報知音計測−高齢者の聴覚特性に基づく検討」:通産省工業技術院生命工業技術研究所,人間工学 第34巻 特別号
31) 「家電製品の報知音パターンが心理的評価に与える影響に関する研究」:金沢工業大学,人間工学,1996
32) 「松下電器工業規格(MIS)」
・家電製品に関する加齢化対応設計基準
・製品操作に関する表示用語の視認性基準
・使いやすさのための製品操作仕様基準
・製品操作用凸記号
・製品操作用点字の寸法及び表示方法
・製品操作に関する報知音使用基準
・製品の操作と操作表示及び状態表示
33)「松下電器テクニカルマニュアル(TM)」
・家電製品の使いやすさマニュアル(白内障編)
・家電製品の使いやすさマニュアル(使いやすさデータ集)