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スペシャルインタビュー
第二弾

ISO/PC283日本代表エキスパート
株式会社テクノファ 平林良人氏に聞く

第2回 規格開発まで、なぜこれほど時間がかかったのか

 ISOとILOは、ともに世界平和の観点から、片や工業製品やサービス、片や労働者保護について、様々な国際活動をする機関ですが、それぞれの立場と領域があります。ISOには、これまで3回、労働安全衛生マネジメントシステムを作ろうという提案がありましたが、ILOは、それはISOが扱うべき問題ではなくILOの専管事項であるという主張をして、なかなか折り合いがつきませんでした。それが規格の開発、制定にこぎつけるまでに時間がかかった大きな理由です。
 2000年頃になると、しびれを切らしたBSIは、OHSAS(Occupational Health & Safety Assessment Series)というグループ設立を世界の標準団体に呼びかけました。これは、趣旨に賛同する各国の標準団体などからなるグループが、ISO規格ではないものの、世界で共通の労働安全衛生の規格を作ろうという趣旨の呼びかけでした。その結果、OHSASグループは、OHSAS 18001、OHSAS18002という2つの規格を発行し、認証制度に結びつけました。2001年、ILOもOHSAS 18001に対抗するようなガイドラインを発行しましたが、これには認証制度は結びついていませんでした。その後10数年がたち、2013年に、ISOとILOとで国際規格を協力して作ろうという合意文書が交わされました。いままで、協力してこなかった2つの国際機関がどうして合意文書を発行するまでに歩み寄ったのか、多くの人がその背景を知りたがりました。当時、OHSAS 18001の認証数は世界で10万件(日本で約2千件)を超えていましたので、ILOとしても、働く人々の安全に関して組織にプレッシャーをかけるためには、認証制度というものがある意味大きな力を持っていると認めざるを得ない、ということで合意したのではないかと思っています。


‐労働安全衛生マネジメントシステムとの関わり


 私自身は結構古くて、多分1995~1996年くらいからだと思います。ISO 14001が間もなく発行されるという時期だったと思いますが、当時から、労働安全衛生マネジメントシステムの規格も出るのではないかということが言われていて、私は何回もイギリスへ行っていました。というのも、1987年から1992年まで、イギリスに駐在していたので様々な接点があったのです。
そのうちBSIがBS 8800という労働安全衛生の規格を発行しました。それが1996年だったと思いますが、その頃から関与しています。向こうのコンサルタントを日本へ呼び、BS 8800規格概要説明会を1997~1998年ごろに数回開催したりしました。


 その後、BS 8800の対抗軸として、オーストラリアや、ニュージーランド、フランスなど様々な国が国内向けの労働安全衛生規格というのを作り始めました。しかし、ISO9001からの歴史があるためかBSIの名前は強く、ブランドとしてもBS 8800がもっとも知れ渡っていたため、それをベースとして、先ほどお話ししたOHSAS 18001ができました。内容的にはBS8800と非常に似たようなものでしたが、もう一歩そこから抜け出して、インターナショナルなものを作りたかったのでしょう。私もその会議に出席していまして、そこでISO/PC283(ISO 45001を開発している委員会)の国際幹事であるBSIのチャールズ・コリー(Charles Corrie)氏と顔見知りになりました。
 そのうちにOHSAS 18001の参加者を募集したいとチャールズが言うので、「じゃあ日本も入ろうか」という話で、国内の関係者に声を掛け、名乗りを上げました。
 その後、ISOで労働安全衛生マネジメントシステムの規格開発提案が却下され、2005~2006年からはしばらく動きがありませんでした。そして今回のISO化が2013年からですから、まあ8年ぐらいですね。BSIとしては、ずっと我慢に我慢を重ね、時期を窺っていたのではないでしょうか。OHSAS 18001の認証数が増え、ILOがOHSASの力を軽んじてはいけないような状況が作られたのではないかと思います。2017年9月のPC283総会としては最後になるマラッカの会議では、チャールズが「私の25年の悲願だ」と言って、涙を流さんばかりに喜んでいましたよ。



平林 良人

株式会社テクノファ 取締役会長
セイコーエプソン英国工場長を経て、1993年に株式会社テクノファを設立。JAB評議員、JISマーク委員、各種ISO国内委員会委員を歴任する。また、TC176(ISO 9001)エキスパート、OHSASコンソーシアムメンバーを歴任し、ISO45001については、ISO/PC283日本代表エキスパートとして国際委員会に参加している。これまで多数の著書を出版。日本規格協会からは「やさしいシリーズ8 [2007年改正対応]労働安全衛生(OHSAS)入門」「OHSAS 18001:2007 労働安全衛生マネジメントシステム 日本語版と解説」「ISO共通テキスト〈附属書SL〉解説と活用」等を出版している。

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