標準化研究ジャーナル (2016-03)

標準化教育

標準化研究ジャーナル (2016-03)

 

巻頭言

標準化の重要性

国際標準化に関する研究が事例研究を中心になされてきた。研究の対象が技術、製品、マネジメント、生産方式、環境アセスメントなど多岐にわたっている。一方で、標準化の活動は法律や国の貿易などの経済活動、国の政策などの政治的な問題や国際的な合意事項と関係し、複雑な問題を提示している。また、国際的な問題や、国、地域など特定なエリアの問題から、歴史的な過程の中での活動であったり、多様な課題を提示する課題となっている。時には安全保障の問題にも影響を与える。標準化を成功することは、国、企業などの大きな利益を生み出し、産業を発展させる上で大きな原動力となっている。

最近、標準化の重要性が認識され、標準化授業を行う大学が増えてきた。大学における標準化授業は標準化の基本的な理念とルール、活動機関の紹介、標準化の方法、事例研究が中心に行われてきている。経済産業省、総務省も大学の標準化授業への応援や、日本規格協会、日本ITU協会などの標準化機関も大学への標準化教育支援だけでなく、自らも標準化セミナを開催し啓蒙活動を行っている。

最近では多くの標準化教育支援がなされているが、必ずしも十分ではなく、日本では企業の経営者を始め、生産現場の人々、営業分野の人々においても十分にその重要性を認識しながら経営や経済活動を推進してはいない。これには、日本は隣国との関係が海を隔てていることで、他国との干渉が直接的ではない文化や、日本語のみで生活できることや1億2千万人の人口で日本である程度としていても経済が成り立つ社会を形成していることで、必ずしも標準化が必須要件となってはいない。

世界の経済がグローバル化する中で、開発途上国での教育水準の向上や工業化は情報化が急激に進展し、海外で国は多くの企業が市場拡大を進めてゆく。今後、東南アジアへ多くの投資がなされてゆくことで、工業製品の生産拠点や金融の拠点が東南アジアへ移行する。標準化は今後の日本経済の推進する上で戦略として重要である。

標準化人材の育成

日本の中で標準化教育を推進し、多くの標準化人材を育成するには、大学における標準化教育の充実が重要となる。当然、その延長線上において中高の標準化教育を行うことが必要となる。標準化教育の目的は、日本の研究力の強化と密接に繋がっている。研究の成果は、知財として権利化される。発明を発明として終わらせるのではなく、その成果が社会に貢献できることと合わせて、発明者にも十分に利益をもたらさせることを知ることが重要である。

日本の工業社会は、大企業を中心に多くの中小企業がその下請けとして製品に一部の生産を担う構造をしている。しかし、工業社会構造がグローバル化を進めるには、縦型社会だけではなく横型社会の要素を取り入れながら、縦横社会のハイブリッドの構造をもつと同時に、ベンチャー企業が活躍し、大学の研究成果が社会のために役立つ構造の変革が求められる。

日本の社会構造を変革すると同時に、教育のあり方も標準化教育の充実と、国際社会から多くの人材を招き、大学教育を通して日本を十分に理解した人々が国に帰ってそれぞれの国の建設を行うことにより、将来の日本の姿を形作ることが可能となる。

このことは、単に標準化教育が充実すれば、日本の工業製品が海外で拡販され、日本や日本の企業は豊かになれる問題とは明らかに異なる。

標準化教育のあり方

今、欧米、日本、中国、韓国において標準化教育は推進されている。ここでは、標準化の基本的な成り立ちや、歴史を学ぶことができる。現実社会の中での標準化はリアルなビジネス社会であり、必ずしも学校で学んだことが直接役立つことはない。また、標準化模擬会議を通して英語力の向上や議事の進め方の基本を学ぶことができても、必ずしも標準化の達人にはなれない。技術においても高い専門性と深い人間関係を有することが求められる。

標準化教育を進める上で、標準化機関、役割、過去の事例を研究することと合わせて、標準化を学ぶために、標準化を学問で体系化することが重要である。標準化を経験則で学ぶのではなく、今後の標準化活動を進めることがビジネスとしての意味づけを明確にすることにより、知財だけでなく、技術者、ビジネス、経営者にとって、標準化を進めることに判断指針を与えることができるようになる。

現在、経済学分野、社会科学分野、金融分野において工学と関係づけながらゲーム理論、金融工学、リスク分析、ストレス分析など多くの試みがなされている。例えば、標準化活動をゲーム理論で分析する手法として簡単に紹介する。

A社、B社がそれぞれ携帯電話のビジネスを展開している。当然、情報通信分野であるから、国際標準化は必須である。それぞれの企業において技術開発がなされているが、A社の有する知財はn件、A社からB社がライセンスを受ける知財をx件とする。標準化活動は先手でA社を進め、B社は後手でA社の標準化戦略の枠でライセンスを受けることとなる。その理由は、A社は必須特許を有し、絶対的な力を持っている。A社の戦略は技術力、標準化、ビジネス戦略の総合力においてB社をしのぎ、その指数はα乗とする。スタックベルグゲームを使った簡単な例を下記に示す。

A社の効用関数
F1 (p1,n)=x*p1+nα*c1……(1)
A社のコスト
F2 (p1,n)=-x*p1+nα*c1……(2)
従ってB社の効用関数
F3 (p1,n)=x*p1+c1*(n-x)α*c2……(3)

       図1 効用関数の計算結果

ここで、p1は知財価格、c1はA社の知財コスト、c2はB社の偉材コストである。

効用関数をA、B社のそれぞれの有する知財比率に対する効用関数の計算結果を図1に示す。この結果は、技術、標準化、知財の総合力を有する企業が有利にビジネスを進めることが分かる。これは、単純なモデルである。現実のビジネス社会においてはもっと複雑である。

近年、金融工学、ビッグデータなど膨大なデータを利用して未来予測に使う研究も進められている。標準化と発明・知財とビジネスを科学的に分析する学術的体系化が今後の標準化を推進することが求められる。

まとめ

標準化教育の普及とともに、標準化の重要性が認識されてきている。しかし、まだ標準化の活動は一部の企業活動にのみに限定されている。私たちの生活と密接につながっている標準化が企業活動の普段の活動と密接につながることが重要である。そのためには、標準化活動の科学的な分析と標準化の価値の定量的な分析が必要である。現在、このために解析方法については十分でなく、世界に先駆けてこの領域の研究を進めることが求められる。

2016-03-01
早稲田大学
佐藤 拓朗

 

1 最近の国内動向

ISO、ITU、IECなどの国際標準化機関や各国の標準化機関および大学が、標準化教育の普及に向けて取組んでいる。本論文では、大学における教育について各種報告をもとに考察するとともに、国際標準化教育の現状を概観し、望ましい国際標準化教育の在り方を提案する。
本稿では「標準を使う」及び「標準を作る」教育を受けた学生が実践している「標準を教える」取り組みに焦点を当て、標準化教材及び実践を通じた学生主体の標準化教育方法とその成果を示す。
標準化教育に関する取り組みが、2000 年ごろから国内外で盛んにおこなわれるようになってきた。本稿では、標準化に関する効率的で効果的な教育の開発と普及の一助となるべく、ISOから標準化教育の取り組みに関して受賞された大学を取り上げ、ISO基準により標準化教育の比較研究を試みる。

 

    • 工学教育 2015/5(63巻3号)小特集「標準化を担う人材育成」より
      • 国際標準に係わる人材の育成について
        【佐々木 元(日本電気株式会社名誉顧問)】
        グローバリゼーションによる経済の市場化と、世界を巻き込んだインターネットを始めとする情報技術の進展は、ますます世界を一体的に結びつけ、個人や企業が国境を意識せずに活動することを可能にした。この様な大変化の時代にとって何よりも重要なことは、如何に国際的活動が出来る優れた人材を確保するかである。
      • 高等教育機関での標準教育の変遷と高度化
        【田中 正躬(日本規格協会顧問)】
        本稿では、まずこの20年弱の間に標準化教育がどのような広がりを見せ、どのような課題に取り組み、どのような進展が見られたかを国際的な動向を踏まえ解説する。併せて教育内容や手法についてもその変遷をレビューし将来の課題を論ずる。
      • 世界の大学の連携による国際標準化教育の設計
        【中西 浩(Malaysia-Japan International Institute of Technology、大阪大学)】
        本論文では、世界の大学等での国際標準化教育の実施状況調査内容を明らかにするとともに、大学での望ましい教育について、国内外大学の連携による国際標準化教育の設計について明らかにする。
      • 早稲田大学における企業ビジネスと標準化教育
        【モハマド アリフザマ、周 振宇、春田 かすみ、佐藤 拓朗(早稲田大学)】
        Cellular standardization process is good example to give education program to make students accustomed with standardization and its importance. This paper introduce the process and influence of standardization of CDMA (Code Division Multiple Access), the technology organized by Qualcomm in 2000. This paper also clarifies the importance of Game theory for the relationship of patent, royalty and standardization.
      • 国際市場参入のための京都大学におけるアセットマネジメント標準化教育の試み
        【小林 潔司(京都大学)】
        本稿ではインフラのライフサイクルの中でも運用段階におけるAMに着目し、インフラ輸出相手国において京都大学が実施しているAM標準化教育事例をとりあげ、今後のAM標準化戦略や標準化教育の効果について考察する。
      • 電気工学や鉄道等におけるシステム技術の標準化教育の必要性
        【渡邉 朝紀(東京工業大学)】
        電気工学の技術者として、電気鉄道技術に40年以上、その標準化に20年以上関わって来た経験に基づいて、電気工学や鉄道等における
        システム技術の標準化教育の必要性について考察する。
      • 企業における標準化教育と大学における標準化基礎教育
        【岡本 秀樹(東京農工大学大学院)】
        標準や標準化に関する基本的な事柄は、技術者あるいは技術的素養のある者を大学院から企業にかけてシームレスに教育を行うことで滋養できると思われる。企業と大学院の教育における大きな違いを考えてみると、時間的制約と実務経験の多寡がある。企業と大学院において異なる教育条件を考慮したそれぞれの標準化教育の取組みを、どのように行っているかについて紹介する。
      • 知的財産と標準化教育
        【藤野 仁三(東京理科大学)】
        筆者が担当する標準化科目を受講する院生のほとんどは、若干の例外を除けば、ほとんどが標準化についてこれまで学習したことがない。したがって、授業は標準化についてある程度の知識レベルをもつ者と全くの初学者とが混在している状況で行われている。本稿は、そのようなクラス環境の中で筆者がどのような授業を行っているかを紹介し、読者のご参考に供するものである。
      • 大学での標準化教育における基礎としての規格文書に関する教育プログラム
        【小町 祐史(大阪工業大学)】
        規格を読み、規定内容を理解するための規格文書に関する教育プログラムとして、どのような講義、演習等があり得るかを検討し、筆者が大学院の学生を対象として開講している2単位の授業「国際標準化戦略論」の中で行った事例を紹介する。

 

  • その他、標準化教育に関して寄せられた論文
    • 市場シェア拡大に資する標準化教育における標準化情報の活用について
      【平松 幸男(大阪工業大学大学院)】
      本論文は標準化関連情報が企業の製品あるいはサービスを市場に導入する上で有用なことを指摘する。次に一例として、ネットワーク機器市場における市場シェアと3GPPの関連WGに提出された標準化提案文書数との間の相関を評価する。最後に、標準化情報を用いたPBLを基礎とする標準化教育を提案する。
    • 環境マネジメント分野の標準化教育
      【伊藤 佳世(中部大学)】
      経済活動の中で標準化の役割が高まる中、戦略的に標準化に取り組むために標準化を担う人材(標準化人材)の育成と強化が課題である。環境分野については持続可能な開発の担い手育成を目的に様々な大学が教育・研究を推進している。様々な日本の有する知見を用いて地球規模の課題に対応するためのルール作りに参画する将来世代の育成は急務の課題である。
    • ISO表彰制度を利用した標準化教育の大学間比較の考察
      【岩垂 邦秀(日本規格協会)】
      標準化教育に関する取り組みが、2000 年ごろから国内外で盛んにおこなわれるようになってきた。本稿では、標準化に関する効率的で効果的な教育の開発と普及の一助となるべく、ISOから標準化教育の取り組みに関して受賞された大学を取り上げ、ISO基準により標準化教育の比較研究を試みる。

2 ICES出席報告

  • 岩垂邦秀:ICES/WSC 2015参加報告
    2015年8月に韓国で行われたICES(International Cooperation for Education about Standardization)2015及びWSC(World Standards Cooperation) Academic Day 2015では、各国の取り組みの紹介や、標準化において必要なスキル、標準化教育のための組織の状況や計画などについての議論が行われた。

 


発 行: 一般財団法人日本規格協会
Journal of Standardization Research