国連の専門機関であるILOの基本的な言い分は、法を守れということです。一方、ISOはNGO(Non Governmental Organization:非政府組織)であり、法を守れということは言わないのが原則なんです。法的要求事項を守るための要素(例えば、守るべき法的要求事項を特定しなさい、働く人全員に周知しなさい、守っているかどうかをモニタリング、測定しなさい等)ということを要求事項にいっぱい規定していますが、法律を守れという要求事項はないんです。
この微妙な違いがなかなかILOには理解されませんでした。ILOは今回のISO 45001の中に、法を守れということを書けと何回も要求しています。ISOは「いや、書けません」と。もし書けば、世界中の第三者認証の審査員が、法を守っているかどうかを組織へ入り込んで取り調べるということになります。民間の組織が法の番人なんかやったら、組織は怒っちゃいますよね。そんな権限はISOのマネジメントシステム審査の領域を外れますから、そんな基準を作るわけにはいかないのです。
まもなくISO 45001は発行になりますが、ここに来て、ILOは規格発行後の見直しなどにはあまり協力的な姿勢を見せなくなってきています。あくまでも私の見立てですが、認証機関による安易な認証が世界中でばらまかれることを危惧しているようです。認証を取った組織が事故を起こせば、「ILOは何でこんなものを作ることに協力したんだ」と各国の労働界から批判を受けることになりますから。多分そこに一番リスクを感じているのではないかと思うんです。
私も今の認証制度の形骸化に対しては非常に批判的なんです。やはりこれだけ認証機関が増えて、審査の中身より、お客様を逃がさないよう認証書を発行すればいいというような動きは、何とかしないといけないと思っています。
連載目次