第5回 統合マネジメントシステムの構築
ISO 45001はISOの共通テキストに基づいて作成されていますので、規格の章立てがQMSやEMSと同じようになりました。要求事項も、例えば内部監査とか文書管理とか、ほぼ共通です。このような共通部分は既にあるプロセスを導入して、少しでもシステム構築の時間を減らしていく。そうすることで、運用もしやすくなると思います。それから、内部監査の指摘事項の是正処置要求書のような様式も共通で使えますので、上手く既存のプロセスを活用していけば統合マネジメントシステムのメリットは大いにあるのではないでしょうか。
それから、まだQMSやEMSに取り組んでいない組織がISO45001の導入をきっかけに統合マネジメントシステムを構築するなら、例えば、労働安全衛生法で実施していることをまず整理する。あるいは環境のほうでいえば、環境法に基づいて取り組まれていることを整理して、それらが規格のどの項番、箇条に関連しているのかを考え、システムの中に入れていってもらえればと思います。初めての方は規格の要求事項ばかりに目が行ってしまい、そこに従って仕組みを何とか作ろうという考えになりがちなんですね。そうではなくて、すでに取り組んでいる活動をどのようにシステムに組み込んでいくかを考えた方がよいかと思います。
― EMSとの相性
EMSとISO45001は、かなり共通的な要求事項になっています。もちろん共通のところはできるだけ一緒にやればよいのですが、共通と言いながら若干違う部分もあります。例えばトップマネジメントの役割の中で、環境で要求されている事項とISO45001のほうで要求されている事項は、安全衛生委員会のことなど三点ほど違っています。規格の要求事項の最初の表題はほぼ一緒ですが、具体的な中身がちょっと違うところがあるんです。そこら辺は気をつけて仕組みを作ってもらえれば良いかと思います。
環境との相性が良いといわれる理由は、他にも、例えば、塗装する作業場所がある場合に、塗装ですから有機溶剤を使いますよね。もしも有機溶剤が作業場所に拡散していけば、作業場所の安全衛生上の問題になるんです。それから塗装ブースから排気ガスが出た場合、これは外へ行って環境上の問題になる。同じ一つの有機溶剤でも、発散していくところが安全衛生だったり、環境だったりということで、環境と安全とは切り離せない関係がある。それに、元の考え方が同じというところもあります。安全は怪我や病気の元となる危険源を、環境は環境に影響が及ぼす発生源を、管理していきましょうということ。要はどちらもリスクを管理するという考えなんです。
宣伝になってしまいますが、日本規格協会では「ISO14001内部環境監査員のための45001複合監査コース」という研修コースを開催して、環境と安全の規格要求事項がどのように違うかというところを中心に話をしていますので、ぜひ参加していただければと思います。
― 統合マネジメントシステムの審査
現在、OHSAS18001とISO 14001との労働安全衛生と環境の統合マネジメントシステム審査、あるいはそれらに加えてISO 9001まで統合されて運用されている組織があります。その場合にどこを重点的に見るかというと、労働安全衛生の関係からいえば、やはり災害とかそういうところを重点的に見ますが、統合されている以上は、統合されている部分、例えば内部監査、マネジメントレビュー、文書管理など、ここら辺が本当に統合されているのかどうか。つまり、一応マニュアル上は統合されているんだけれども、それが形だけではなく、実態としても統合されているかという観点から確認しています。
組織の事務局には、QMSが得意な方や、EMSが得意な方、もちろん労働安全衛生が得意な方がいらっしゃると思いますが、各システムに力量を持った事務局員を配置する人的資源が十分に投資されていないと、なかなかうまく活動していかないという問題があります。マニュアルは一本でも管理部門が別々では、十分にマネジメントシステムは機能しません。ただ、そういった統合マネジメントシステムの問題は審査員の側も同じことで、やはりおのおの自分が不足している部分の力量を上げていくというのは、我々にも強く求められていると思います。審査員は日々、研鑽する気持ちを持っていないといけないと思います。