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平常時における緊急時の計画―緊急事態及びインシデントの処理①

 前述(※注:第5・6回参照)のように,本規格ではマネジメントシステム全体のPDCA サイクルの「D(DO)」がハザード分析に基づく管理に該当する。さらに,その「D」もまた,PDCA サイクルにより構成されており,「P(PLAN)」には,「前提条件プログラム(PRPs)」,「トレーサビリティシステム」,「緊急事態への準備と対応」が該当している(図1)。


 全体のPDCA の「D(箇条8)」を運用するにあたり,その「P(PLAN)」に緊急事態への準備と対応が求められており,8.4.1 一般の主語は「トップマネジメント」である。経営者が全体のPDCA の「D」の要求事項に登場するところが,品質マネジメントシステムと異なる。食品安全については,経営者もマネジメントシステムのDO に直接参加するという主旨である。


 HACCP システムにおけるハザード分析は,事故は発生していないが,潜在的なハザードを見える化し,影響の程度と発生頻度を事前に評価し,管理手段を決めて,予防的に活動することを目的としている。それに対し,緊急事態への準備と対応は,事後の対応の適切性,有効性を確保する取組みである。製品の種類や形態,潜在するハザード,シェルフライフ,販売経路,利用者(乳幼児や高齢者,アレルギーに注意を要するグループなど)により想定される重大事故の予兆や発生の態様が異なる。例えば,毒物が混入した製品が市場で複数発見されたという緊急事態の発生を想定する場合,製造から消費までの日数が短いチルド製品では,健康危害が短時間に多発することが想定され,速やかな消費者への注意喚起や医療機関への事故発生の連絡と対応の要請が必要で,また,対応要員の販売地域への配置が必要となる。それに対して,賞味期限が長めの製品や冷凍の製品である場合には,消費する時期がまちまちになることから,健康危害が散発になることが予想される。緊急事態であることの判断が遅れないように第一報の情報収集が重要となる。この場合は,倉庫で保管されているなど流通過程にある在庫品の把握や出荷停止など,途中段階の管理も必要となる。


 本規格箇条8 では,「緊急事態及びインシデントの処理」のしくみを求めている。私たちは,航空や鉄道輸送のトラブルのニュースで「重大インシデントに該当する」という言葉を聞くことがある。あわや惨事になるところであった事故というイメージであろう。また,医療・介護の分野では「インシデントとアクシデント」といったように,重大事故(身体危害の発生)になる以前にその原因の存在に気づいたり,重大な事態になる前に回避する対応を取ったりすることが当てはまる。いずれも,重大事故の態様は異なるが,インシデントの発生と重大事故の発生には境目はなく,インシデントに気づかなければその先には重大事故がかなり高い確率で起こり得る状況のことを指している。


【図1】 ISO 22000:2018 のPDCA サイクルの概念図
(出典:対訳ISO22000:2018 ⅷページ
二つのレベルでのPlan-Do-Check-Act サイクルの概念図)

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