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平常時における緊急時の計画―緊急事態及びインシデントの処理②

 「インシデント」については、その管理や運用は、2005 年版では明確に要求事項としていなかった。しかし、現状において様々な現場でヒヤリハットや危険予知、予防保全活動がある。また、個人衛生管理ルールの遵守も重大事故の発生防止の点で重要である。そして、予兆管理という点では、組織の製品やサービスを利用する顧客対応の場面も重要で、顧客からの問い合わせやご指摘に関する情報から異常の予兆を適時に察知することも求められる。これらの活動と食品の安全性確保とのつながりを認識し、予兆を見落とした場合の影響の範囲や程度を推定するなど、活動の成果を測定することも検討の余地があろう。

 米国FDA では食品事業者の経営者が従業員に実施するフードディフェンスの教育に盛り込む事項の一つとして、「異常や疑わしいことを発見したら上司に報告する」を掲げている。また、我が国発の食品安全マネジメントJFS-C 規格では、現場からの改善提案の活用を要求事項としている。現場の従業員からの声を活用することが日常的に行われることは、適時に異常が伝わることにもつながるだろう。本規格の運用では、危害の発生頻度や重篤性の評価において、重篤性は低いがハザードの発見が遅れたり、対応が遅れることの影響など、時間の要素を考慮することにより、管理手段の精度の向上といった相乗的な効果も期待される。

 重大事故の発生メカニズムや影響の程度を事前に想定し、処置を検討するためには、自社、他社、業界の過去の経験や知見を活用して、緊急事態の予兆管理ができる人材の育成、データの収集、トレーサビリティの確保も関連付けて、活動の強化と評価をすることが大事だろう。そして、経営者には緊急事態における対応の判断はもとより、日常の現場の状況を把握し、一人ひとりが異常を見つけ、責任者に伝えることができているか、緊急事態を想定した場合に、適切に対応がとれる状態であるかをよく観て、必要な指示、資源の投入を直ちに行うことが求められている。また、経営者の指示のもと、組織内の人々は、緊急事態発生時の対応について、フードチェーンへの影響の程度や範囲に合った情報の伝え方、対応の基準や内容を常に考えておく必要があろう。

 緊急事態とインシデントに境界を設けることが難しいように、緊急事態と日常の活動に境界はない。

まとめ
 本稿ではISO 22000:2018 と組織運営の大きなPDCA、特にトップマネジメントとの関わりについて概観を述べた。組織の実態に即した活動として食品安全マネジメントシステムが運用され、関連するフードチェーンにおけるコミュニケーションや経営に寄与できるシステムとしてうまく活用され、組織、社会に根付くことを目指したい。

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